労働災害の今昔 

 当事務所に古い当協会の会報紙の綴りがありました。昭和54年からものです。今から約40年も前です。それらの中に当時の労働災害の数字が載っていました。なんと、例えば昭和53年は11月までに鳥取県内の死亡者数が26名、昭和54年は11月末時点で14名となっています。そんなに多くの方々が亡くなっていた時代があったのだと当時の死亡災害の発生状況を拾い読みしました。
いくつか紹介させていただきます。
・ 道路工事現場においてバックしてきたダンプトラックに労働者が轢かれて死亡。 ・ 集材装置の解体作業において装置の支柱が倒れて作業者にあたり死亡。 ・ 木造家屋建築工事で高さ3.6mの大引き上で作業していた労働者が墜落により死亡。 ・ 道路工事現場で工事終了に伴い標識を撤去作業中に走行してきたトラックにはねられて死亡。 ・ 鋼管はしごで天井の排水パイプを修理中、はしごの脚部が折れて1.5m墜落し死亡。 ・ 送電線の柱上作業を終えて降下中に高圧線に触れて感電死亡。 ・ 印刷機の版ローラーに付着したごみをゴムヘラで取ろうとして、回転中の版ローラーと練りローラーに腕を巻き込まれ死亡。 ・ 集材機のキャレッジに原木を玉かけして巻き上げたところ原木が回転して作業者に激突し死亡。 等々ですが、これらはごく一部です。40年前の死亡災害の発生状況ってこんな具合です。災害防止の方法がわからないものは一つもありません。防止対策を講じておけば防げた事故ばかりです。でも、その対策が結果として講じられていなかった。それぞれにいろいろな事情があるのでしょう。でも、組織が、会社が、安全を最優先することを怠っていたことは事実でしょう。被災者のことを思うと、ひどい話です。
 ……と考えながら、「ところで、現在の死亡事故は?」と、行政機関のHPを見てみると、鳥取県内の平成29年の事例として
・ 林道工事において不整地運搬車を運転中に、方向転換のため路肩に寄せて走行していて路肩から17m転落し運転者が死亡。 ・ サイロ下にトラックを停めて「おがくず」を積み込み中に、「おがくず」の中に生き埋めになり死亡。 ・ 工場内天井クレーンの清掃作業中にクレーンガーダ付近から8m墜落して死亡。 などが公表されています。
 件数こそ少ないものの、このように書き並べてみると、発生状況や推測される原因などは昭和50年代と何も変わっていないのです。これらについても、講ずべき(ひとつだけではない、いくつもの)防止対策のわからないものはないと思います。やはり、いろいろな事情があるのでしょう。でも、防げたはずの事故であり、関係者の方々には申し訳ありませんが、悔やまれてなりません。
 過去からずっと、死亡災害の撲滅、労働災害の削減と言い続けてきているのに、事故の発生状況は変わっていないのです。死亡事故に限らず、労災事故の多くは、40年前も今も同じような背景、同じような問題を含む中で発生しています。
 それぞれについて想像しながら原因を検討してみてください。「あれを行っておけばよかった」、「それができなかったのは何故か」、「できなかった事情を把握していないのは何故なのか」、「他にも、こうしておけばよかった」、「何故、誰もそれに気づかなかったのか」等々の反省すること、悔やまれることばかりではないでしょうか。
 私は、事故にはいろいろな要因が重なっており、各要因が偶然,ある場所である時に出会って「事故」という結果になるものだと思っています。誰か一人が悪い、誰かひとりが原因者だといえるような事故はほとんどないと思っています。そして、誰かひとりでも、一つの要因でもよいから取り除いておけば……と悔やまれるのです。
 今一度、社員一人ひとりの作業を詳細に把握して、危険を予見して、本気で、ひとつひとつ、事故原因となりうるあらゆる各要因、原因を、根気強く、あきらめず、丁寧に取り除く活動を継続することです。
全員参加  そして、この継続を担当者ひとりに任せるのではなく、社員全員が危険を捉えるアンテナとなって活動に参加することです。任された担当者がひとりで取り組むことは、辛いものです。でも、全員が同じ方向を向いて、同じ目的のために活動を展開していけば、担当者はきっと、持てる力を存分に発揮できます。個人の力は微々たるものです。でも、同じ目的をもった集団は大きな力を発揮できます。集団、組織体こそが労働災害を防ぐ力を発揮できるのです。
 組織体を動かすのはトップです。
 そして、労働災害を防げる組織体になったとき、会社はきっと、さらに輝きます。

2020/10/01  (  文責 : 丸山ひろき )