「見える化」について 

  労働災害防止活動の一つとして「見える化」を展開している例は数多くあります。この「見える化」について、私はその目的が「全ての関係者が必要な情報を必要なときに速やかに共有できる」ことであり、そして、そのことによって「全員参加を実現すること」に有効な手段であると考えています。そのために有益なのは、「ルール」、「安全意識」、「安全活動」、「正常な状態」、「活動の効果」などの「見える化」であると思います。
  はじめに「ルールの見える化」についてです。例えば「歩行者通路と交わる場所では必ず一旦停止すること」をルールとしてしっかり教え込むことは大切ですが、該当の場所に一旦停止の表示があれば対応はより簡単ですし、ルールを守る側も直感的に遵守行動が取りやすくなります。また、「積み上げ高さは1mまで」と教えるより、該当の場所に高さ制限表示をすれば、1mの基準を覚えなくても、また、高さを計測しなくても対応可能です。ルールを簡単にした「見える化」は有効な手法だと思います。
  次に「安全意識の見える化」です。従業員などの関係者が「誰が、どのような思いで安全活動に取り組んでいるのか」を知ることはとても大切なことだと思います。いろいろな立場の方々が、工夫をしながら組織内で自らの思いや決意を発信する取組を行ってはどうでしょうか。
  更に「安全活動の見える化」です。誰が、何時、何を行っているのか。これを誰もが知ることができたら、災害防止に大きな効果が生ずると信じています。一例ですが、足場とか、営業車両とかの作業開始前、始業時点検について、「本日の点検が終了したこと。点検した者。安心して使えること。」などを簡便に、しかもメッセージ性を込めて「見える化」手法で伝えることができたら、それらを使う人たちは実際の具体的安全活動に触れることができますよね。役員、安全管理者、現場責任者、担当者などの活動に関する情報は、是非発信していくべきだと思います。
  その他、「正常な状態」、「活動の効果」も見える化で工夫して全員が情報共有すべき対象です。
  以上のように、伝えるべき必要な、有用な情報を整理、整頓して「見える化」手法でそれぞれの立場で発信することが本当の目的であると考えています。
  そして、「見える化」の情報提供には、工夫が必要であることも留意すべきです。有用な情報の根本部分を直接的に伝える工夫を行うことです。沢山の文字で記述した表示はできれば避けるべきです。なぜなら、視覚として捉えられないからです。文章は直感的には情報として入ってこないからです。
共有   何より、決して忘れてならないのは「見える化」は目的ではなく手段であるということです。
  災害防止のために必要なことは、それぞれが何を守り、周りで何が行われ、誰がどのようにかかわり、加えて「自分」の立場や役割、関与すべきことなどが具体的にわかっていることです。その目的を実現するために「見える化」という手段を用いるのです。そして関係者全員が必要なときに、必要な情報を共有して、同じ目標に向かって進んでいくのです。
  災害防止活動の実効性は「全員参加を実現すること」で担保されると信じ込んでいる私です。

  最後に「危険の見える化」についての思いを述べます。危険を視覚に訴えてその存在を知らせる手法は、典型的な、且つ取組み易いもので、実施されている事業所も多いことと思います。「転倒注意」、「火傷注意」、「墜落危険あり」等など、例はいくらでもあると思います。「危険」表示して注意喚起を図ることは災害防止に一定の効果はあるでしょう。しかし、それらの表示の多くに、「見える化」で一件落着としてはならないものが「見える化」措置で完結されているのではないかという危惧を抱いています。「危険」を「危険だよ」と知らせることより、その「危険」を取り除くことがもっと大切なはずですよね。「見える化」のために、その大切さが忘れられることが無いように、危険表示は「見える化」すべき対象ではないものもある(緊急避難措置としては大いに利用すべき)ことを常に自らに言い聞かせることが欠かせないと思います。危険への対応を作業員の注意力に頼っていてはダメですよね。危険表示は最終的な到達点ではないことを強調したいと思います。

2020/11/24  (  文責 : 丸山ひろき )