労働災害事例等で想像力を身につける (1)

 我が国の労働災害は1960年代初頭がピークであり、休業8日以上の被災者が50万人近く、死亡者数が7千人近くとなっていました。集計の前提とか労働者数が異なっているので直接比較はできませんが、令和元年には休業4日以上の被災者が約12万5千人、死亡者数は845人と大きく減少しています。
 労働災害多発時代には、直接、間接に労働災害に接した経験者は多くいらっしゃったのですが、災害の減少と共に、それら経験者は減少し、「労働災害が現実味を帯びたもの」として受け入れ難くなっている、又は「労働災害をイメージ」し難くなっていることが想像されます。
 しかし、労働災害をイメージすることは働く場に「危険」が存在する限りそれを事故に結びつけないために必要なことである思いますし、災害防止に携わる方々や危険な作業を行う方々には労働災害の想像力を持っていただくべきではないかと思います。
想像  現在、労働災害の情報は巷にあふれています。それら災害発生状況から原因を推測し、その原因を排除するための対策を、自らの環境、職場に当てはめて検討し、措置することを繰り返していれば、いつか「想像力」が身につくものと思います。否、身につきます。さらに、不幸にして労働災害を経験された方々等から同じような災害を他者が経験することのないようにと提供してくださる情報を有効に活用することで、被災者やその家族、事業場関係者などの苦痛やご苦労に報いることもできるでしょう。
 そこで、情報源のひとつとして厚生労働省HPにある 「職場のあんぜんサイト」 を紹介いたします。これをキーワードに検索すれば一番目にヒットするはずです。
 そのトップページ左側の「災害事例」グループにある「労働災害事例」や「ヒヤリ・ハット事例」から沢山の危険有害事例を探すことができます。
 例として、「労働災害事例」ページで「事故の型」から「転倒」を選択して最初のページで見つかった次の情報を見てみましょう。(令和元年6月25日時点)
 「スイングドアを通り、売り場に出たところ、水で濡れていた売り場の床で足を滑らせ、転倒した」という見出しです。この中に、「発生状況」、「原因」、「対策」が次のように記載されています。
発生状況:スーパーの惣菜売り場横のスイングドアにて、作業場より売り場に出ようとしたところ、売り場の床が水で濡れていたため、足を滑らせ、転倒した。
原因:この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 売り場の床が水で濡れていたが、拭き取られていなかったこと。
2 作業場から売り場に出る箇所に、靴に付着した水滴を拭き取るためのマット等が設置されていなかったこと。
対策:類似災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 床の水濡れに気がついたなら、直ちに、水切りまたはモップ等で拭き取ること。
2 定期的な職場巡視を通じ、水濡れの危険箇所を洗い出し、該当する箇所に転倒防止のためのマットを敷き、又は頻繁に清掃・水切り等を行うと共に、水濡れの原因を究明して解決すること。
3 事業場にて、安全衛生活動を行う者を選任し、転倒災害防止のため、労働者に対し、職場における安全衛生教育や研修を十分に実施すること。
転倒  「原因」はたいてい「当たり前」のことが記載されています。そして「対策」は、概ね「原因」の裏返しです。さらっと読めば、多分、違和感はないと思います。そして、この災害事例の再発防止対策は、各事業場でも大いに参考となることにまちがいはありません。
 でも、私には原因が「通り一遍」に感じて物足りないのです。原因の背景となる「なぜそのようになったのか」という観点が欠けているように思えてならないのです。そのため、通り一遍の原因の裏返しのような再発防止対策は有効に実施され続けるだろうかと疑問を持ってしまうのです。
 そこで、この情報を基に「想像力」を働かせて、次のページで私なりの原因と対策を考えてみます。

2021/05/13  (  文責 : 丸山ひろき )