労働災害事例等で想像力を身につける (2)
まずは、原因として「何故、床が濡れたのか」、「何故、床濡れが放置されたのか」を明らかにしなければならないでしょう。機械設備等からの水漏れなのか、作業員の行動に付随したものなのかということです。
設備等の水漏れであれば物理的な対策を講ずることができます。基本的にはその対策でこのたびの転倒事故に関しては完結できます(もちろん設備の継続的管理は必要です)。
作業員の行動に付随するものは更に原因を分析する必要があります。床濡れに関与した者が何故、すぐに対処できなかったのかということです。
・ 他の作業を優先しなければならない事情があったのか、他を優先すべき事情は何だったのか。
・ すぐに対処するのに困難な事情があったのか、困難な事情は何だったのか。
・ あるいは、床濡れに対する危険認識が欠如していたのか。
・ 更に、その他の床濡れに気付いた者が何故必要な対応を取らなかったのか。(この観点では機械設備からの水漏れの場合でも同様です。)
・ また、転倒事故が発生するまで誰も気付かなかったとすれば、お客様を含めた店舗の安全確保理念としても問題があります。
これらから原因として私が想像するのは、
「床濡れに即応できる器具の備え付け、整備が行われていない、床を拭こうと思っても近くに拭くものがない。
探して対応するには時間的にゆとりがない。床濡れを報告して即応する体制ができていない、誰に言ったらよいか分からない。床拭き作業の手間と負担が大きく、面倒である。床濡れに対する危険意識が関係者に備わっていない、あるいは、少しの間なら大丈夫と思った。自分の担当ではない。気付いた他者が対応していなのに、自分が対応する必要ない。」
等々などです。加えて、「スーパーの売り場の床」という事情を考慮すれば、お客様を含めた店舗の安全確保にかかるトップの意識の欠如かもしれません。
「まずは」と書き出しましたが、私の想像に該当する原因があれば、それに対策を講ずることで、かなりの再発防止効果を期待できます。但し、求められる行動パターンに人を当てはめることは、それなりの教育、目的の理解と全員の合意などのために必要な取組が数多くあります。
私が最も大切と考えるのは「災害防止は人のかかわりの中で確保する」ということです。人の動きを具体的に想像しながら対策を考えることです。安全を確保するのは一人ひとりの従業員、管理者の具体的な行動です。「誰が何をするか」です。また、行うべき誰かに「行える環境を与えているか」です。そして、それをトップが把握していることです。
「拭き取られていなかったこと」が原因ではなく、「なぜ拭き取られていなかったか」という背景こそが原因なのです。
2021/05/13 ( 文責 : 丸山ひろき )