「リスクアセスメント」と災害防止対策について思うこと (2)

 ここまで整理しておいて、失礼な話をさせていただきます。
 リスクアセスメントを実施なさっている担当者の皆様。「リスクアセスメント」の取組が、KY活動のようなものになっていることはありませんか。例えば、非定常作業におけるリスクアセスメントの結果が「危険要因を含む作業なので、作業手順書を作成し、管理者立会いの下で手順書どおりの作業を行う。」などとなっていないでしょうか。「本日行う非定常作業」に係るKY活動の「私は、私たちはこうする。」と似ていますよね。 KY
 リスクアセスメントの結果としては、「非定常作業における危険、有害要因そのものを排除すること。」それができなければ、設備的対策を講ずる。例えば、「インターロック、フェイルセーフ、フールプルーフ等の方策により、物理的、設備的に作業者とハザードを遮断すること。」であるはずです。そして、このような結論を導き出せない合理的、客観的な事情がある場合に限って「ハザードとの接触により看過できないリスクが存在するが、作業手順書を作成することとし、その運用に当たっての管理体制を実効あるものとして作り上げ、十分に注意し、作業中の事故防止に万全を期すること。」のような結果(マニュアルの整備等と運用における管理的対策)となるのでしょうか。
 リスクアセスメントの結果措置として、「リスクに対して労働者の行動、注意力等に依存する対策」は本来ありえないと考えるべきです。指針はそのような前提を示していると私は理解しています。
 「リスクアセスメント」は「KY活動」とは別のものです。すなわち、リスクアセスメントは基本的にはハザードの除去、ハザードの囲い込みを検討するものであり、KY活動は「不安全行動の防止」がその目的のひとつであるなど、基本的に前提が異なるものだからです。皆様はどのようにお考えですか。
 なお、誤解のないように申し上げておきますが、私は、決してKY活動を否定しているものではありません。ましてや、災害防止のためにはKY活動を有効に展開すべきですし、この活動によって、リスクアセスメントに関する危険感受性の養成と維持を行うべきです。そして、付け加えるならKY活動の結果を集積し、リスクアセスメント実施対象の把握のための情報として使用すべきです。また、培われた危険感受性をハザードの洗い出しやリスク評価の過程で大いに活用すべきです。
 また、作業手順書の必要性やその効力を否定するものでもありません。リスクアセスメントの措置検討における優先順位3番目に示されている「マニュアルの整備等の管理的対策」としての作業手順書であれば、合わせてその遵守を担保するシステム、対策とともに一定の効果が期待できるでしょう。但し、それは措置検討順位の3番目であり、コストと効果に著しい不均衡が認められる場合に限って3番目として示されているものです。より検討順位の高い対策を追求すべきだと思います。「安全第一」の理念です。 会議
 本来、ハザードの存在する作業環境でのリスクを回避するための作業手順書というのは(極論すれば)無理、作業手順で危険を回避するのは間違った考え方ではないかと思います。作業手順書では危険回避はできないと感じています、考えています。
 私が考えるあるべき作業手順書というのは、ハザードに対して物理的対策で囲い込み、作業者と遮断することで安全を確保したうえで、その物理的対策を作業者に伝え、対策を有効に作用させるために守るべき手順や、あるいはその対策の有効性をチェックすべく留意点を明らかにし、ハザードを有効に囲い込みながらリスクなく作業を行う手順を示したもののです。
 イメージとしては、製造物責任法(PL法)における責任回避のために製造者が行うべき警告・表示説明のようなものです。設計、製造段階で欠陥に伴うあらゆるハザードを排除した上で、それでも、ユーザーにその設計思想等を説明し、危険防止のために製品に施した対策を説明し、正常な状態を分かりやすく伝え、容易に異常を判断できるようにして、その際の対応を伝えるといった、非常に念入りに作成された「取扱説明書」のようなものです。
 そのような作業手順書が、関係者全員の理解とともに守られて初めて、災害を未然に防ぐことができるのです。また、新規入場者教育にもそのまま使えるものにもなります。リスクアセスメントの検討順位3の作業手順書ではなく、PL法を意識した「取扱説明書」のようなものであればいいと思います。
「リスクアセスメント」はリスクの数値化が目的でもなければKY活動の一種でもなく、リスクの事前予測・評価によってリスク除去のために講ずる対策を明らかにすることです。

2021/07/13  (  文責 : 丸山ひろき )