「ヒヤリ・ハット」は災害防止のラストチャンス
令和元年11月19日に通勤中の若者が死亡した和歌山市の「鉄パイプ落下事故」を覚えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。私は、当日のニュースで事故を知り、その後の報道等で情報収集しました。そして、26歳の若者は「失うはずのない命を奪われた」ことを知りました。
私が収集した情報では、
(1) 足場の解体作業が行われていた11月15日11時半頃、解体中の足場材鉄パイプが落下する事案が発生し工事が中止された。この時は幸いにも人的被害は生じなかった。
(2) その後、再発防止対策として「防護ネットの設置と鉄パイプにロープを取り付ける」こととして発注者は11月18日に工事の再開を許可した。
(3) 再開の翌日、11月19日午前8時20分頃この解体工事で足場材が落下し、直下の歩行者を直撃し、その方は死亡した。作業員は「鉄パイプを誤って落としてしまった。」と説明している。
(4) 落下した鉄パイプにはロープは取り付けられていなかった。
(5) 工事は23日に再開されたが、安全確保徹底のためとして施工業者が変更された。
といった経過でした。
この事故の報道の際に、2016年に六本木で発生した同様の事故のことが報道されていました。この時も人的被害が生じています。人的被害が生じた事故は広く報道されます。しかし、部材落下のみで人的被害が無いため報道されない事案はおそらく全国で数限りなく発生していると思います。そして、それらの多くの事案は、人的被害が無かったことから「冷や汗」をかいて、その後「この度はラッキーだった。今後は十分注意して作業しよう。」と反省し合い、喉元を過ぎて熱さを忘れ、以前のまま作業を行っているのでしょうか。防止対策は明らかなのに悲惨な事故が繰り返されます。
和歌山市の事故も11月15日の事案発生後、再開の許可を得るための方策として、ネットの設置とロープの使用を決めたのですが、結果として、19日に落下した部材にはロープは取り付けられていませんでした。そして、作業員は「誤って」落としてしまったと説明したようです。18日も19日も事業者は現場にいたと報道されています。であれば作業が決めたとおりに進められているかどうかは分かったはずです。喉元を過ぎて熱さを忘れてしまっていたのでしょうか。結局、本気で対策を講ずる意思がなかったといわれても仕方ないですよね。
「ヒヤリ・ハット」は「天啓」なのです。
15日の部材落下は正に「ヒヤリ・ハット」事故だったのです。この時に本気で事故の原因を除去することができたのです。原因除去を行わなければ、直後か、1時間後かあるいは3日後か、それはわからないけれど、また、同じことが必ず起こるのです。対策を講ずるチャンスとして天が示してくださった「ヒヤリ・ハット」だったのです。労働災害防止のために与えられたラストチャンスだったのですが、それが生かされなかったのです。そして、若者は命を奪われたのです。
繰り返します。「ヒヤリ・ハット」は「天啓」なのです。後悔しないために、ただちに、作業を停止して原因を除去する、「災害防止のラストチャンス」なのです。
2021/09/02 ( 文責 : 丸山ひろき )